第六回:『外出先・在宅でのPC作業』の死角 — 社長が現場に出すべき具体的な指示

カフェの片隅で、ノートPCを広げて見積を直している。新幹線の座席で、次の商談に備えて顧客リストを開いている。在宅勤務で、自宅のリビングからクラウドにアクセスしている——そんな風景は、いまや当たり前になりました。

仕事の場所が自由になったことは大きな変化ですが、同時に「社長の目の届かない場所」で会社の重要なデータが扱われる場面が増えたということでもあります。
今回は、社員が外でパソコンを開く際に、会社を守るために社長がトップダウンで徹底させるべき具体的な行動についてお話しします。

カフェの無料WiFiは、会社の情報を道端に置くのと同じ

カフェや駅、空港、ホテルのロビー。便利な場所には、たいてい「フリーWiFi」が用意されています。
しかし、その多くは暗号化が弱く、誰でも通信内容を傍受しやすい状態にあります。

営業がカフェで見積ファイルを開くとき、その裏側では、会社のクラウドにアクセスするためのIDとパスワードが、電波の中を飛んでいます。
その気になれば、隣の席の誰かが、特別なツールを使って、その通信をのぞき見ることもできてしまいます。

これを防ぐ 一番確実で安全な対策は、「スマホのテザリングを使うこと」 です。
携帯会社の電波は最初から暗号化されているため、のぞき見される心配がほぼありません。
通信を暗号化するVPNサービスを使う方法もありますが、「VPNを入れたから絶対安全」という魔法の盾はありません(最近はVPNの隙を狙ったサイバー攻撃も増えています)。
社長から営業メンバーへ 「外での作業はフリーWiFiを一切禁止し、テザリングを基本とする」 とルール化してしまうのが最も手堅い方法です。

PC画面は、思っている以上に見られている

セキュリティと聞くと、どうしてもインターネットを通じたサイバー攻撃に意識が向きがちです。
しかし、新幹線の座席やカフェの隣の席から、社員のPC画面を直接のぞき見るのには何の技術もいりません

商談帰りの車内で、「今回の見積、ちょっと攻めすぎたかな」と画面を見つめている。
そのすぐ横で、偶然同じ業界の誰かが、ちらっとその数字を目にしているかもしれません。

新幹線であなたの斜め後ろに座っているのが、競合他社の人間だったらどうしますか?
画面を横から見えなくする 『プライバシーフィルター』 は数千円で買えます。この数千円をケチって、何百万円の商談情報や顧客の信頼を失うのは割に合いません。
営業車にドラレコをつけるのと同じ感覚で、外に持ち出すパソコン全台に貼り付けてください。

盲点になる「社員の自宅ルーター(WiFi)」の老朽化

在宅勤務は、会社の外から社内ネットワークにアクセスする新たな入り口になります。
自宅のWiFiルーターが古いままだったり、設定が甘かったりすると、そこから第三者に侵入される危険があります。

在宅勤務を認める条件として、自宅のWiFiルーターの裏面や側面のシールを確認させてください。
そこに 『WPA2』または『WPA3』 という文字が書かれていなければ、その回線から会社のデータには一切触らせないでください。
5年以上前の古いルーターでこの規格に対応していない場合は、数千円をケチらずに会社経費で最新のルーターに買い替えさせるのが、一番確実で安上がりな対策です。

社長が「今月やること」

外でパソコンを開く便利さを手放す必要はありません。その代わり、現場の社員任せにするのではなく、社長のトップダウンで以下の指示を出してください。

まずは明日の朝礼で営業担当にこう伝えてください。
『外のカフェの無料WiFiは絶対に使うな。面倒でも自分のスマホのテザリングを使え。
やり方が分からない奴は、あとで事務責任者(または詳しい社員)に聞きに行け』
と。
そして、総務や事務の担当者に
『今日中に、外に持ち出すノートパソコンの台数分の覗き見防止フィルターをAmazonで注文してくれ』
と指示を出してください。

社長が動くのは、この2つで十分です。たったそれだけで、会社の守りは確実に強くなります。

次回予告

ここまで対策を整えてきた。でも、実は「社員が実行しなければ意味がない」。
次回は「月1回、5分で社員の意識を高める『セキュリティ朝礼』」の具体的な進め方と、12ヶ月の教育テーマを解説します。